(もう帰りたいかもしれないッッッ…!!!)
少年は汗と涙と鼻血でぐちゃぐちゃになった顔をひきつらせながら、
咄嗟に飛び込んだ草薮の中でそう思っていた。
着の身着のままのスウェットに踵の潰れたスニーカー、
背が高くもなく低くもなく、
髪が長いわけでも短いわけでもない、
彼は本当に地味で特徴の無い少年だった。
彼が異世界に転移してきた人間だということは除いて。
“え?ちょっと待ってココ異世界ですよね?
いきなり血の気の多いヤバい異世界人に殺されかけて追いかけまわされてって、
なんか違うんですけど!
なんか思ってたのと違うんですけどーーーッッッ!!!?
ゲームみたいなチュートリアル的なやつ無し??
この世界をナビゲーションしてくれるポジションの愛くるしい生き物は??
一緒に冒険してくれる旅の仲間は?
ねぇ異世界で出会う美少女は?
楽しい時も辛い時もいつでも優しく寄り添ってくれて、時には子供に諭すように叱咤激励してくれるヒロインは?
その子と一緒に旅してムフフな展開は?!
まだ期待していいよね?まだ期待してて良いんだよね?!!そんでとりあえず誰でも良いから助けてぇぇーッ!!!!”
世界と世界を隔てる境界をアッサリと越えてしまい、
途方に暮れる間も無く唐突に襲撃を受けたところに、
突然現れた美しい少女が告げる。
『君を待っていた』
異世界で信仰される強大な力を持つ女神。
その女神に何故か深く関係する日本人。
奇妙な因果の中に、少年は少女が導くままに足を踏み入れていく事となる。
この世界は、
未だ君を必要としているのかも知れない。