「お姉様の恋をちょうだい」
成人の儀式〈賜与の契り〉で義妹のセシルがねだったのは、イネスが五年間抱えてきたカシアン様への恋だった。
会えば甘く囁くのに、夜会では別の令嬢を目で追う人。泣いて、待って、それでも嫌いになれなかった。
けれど神官の羊皮紙には「譲渡は己の有するものに限る」とある。カシアン様の心は、最初から私のものじゃない。
「後悔しても、契りは二度と戻らないわよ」
忠告はした。だから、譲った。
翌朝、涙は一滴も出なかった。
イネスは帽子をかぶり、泣くたびに迎えに来てくれた幼馴染の衛士ルカのもとへ、初めて自分の足で会いに行く。
片方だけ手袋をはめたまま固まったルカに、まず言いたいことがあった。
「今日は泣いてないの」