四十二歳、独身。
令和を生きた博之は、人生に疲れていた。
仕事、人間関係、将来への不安。
何のために生きているのか分からなくなったある日、交通事故に遭い、
その人生を終える。
――はずだった。
次に目を覚ました時、彼は赤ん坊になっていた。
時は1530年。
鉄砲が伝来する前の戦国時代。
場所は九州、薩摩国川内。
島津家もまだ争いを抱え、各地の豪族が力を競う乱世だった。
彼が生まれたのは、小さな村の庄屋の家。
八番目の男児だったため、名前は八郎。
家を継ぐこともなく、土地も財産も期待できない末っ子。
しかし八郎には、前世四十二年間の記憶が残っていた。
料理、農業、商売、歴史、経営。
令和では当たり前だった知識が、この時代では大きな力になる。
赤ん坊の頃は何もできない。
ただ周囲の話を聞き、時代や土地、人々の暮らしを学ぶ日々。
そして五歳。
八郎は初めて動き出す。
「まずは飯や。腹が減ってたら何もできん」
始めたのは、小さな握り飯売り。
刻んだ漬物を混ぜた握り飯二個を十文で売ることだった。
味噌を加える。
山菜を入れる。
余った食材を活用する
さらに川や海で捨てられていた小魚をすり身にし、
つみれ汁として売り出す。
安くて温かく、腹いっぱいになる飯。
最初は子供の遊びと笑われた商売は、やがて村を支える
仕事になっていく。
料理から商売へ。
商売から雇用へ。
農具改良、保存食作り、物流整備。
八郎の小さな工夫は、貧しかった村を少しずつ変えていく。
やがてその噂は島津家にも届く。
そして1543年。
種子島に鉄砲が伝来する。
誰もが新しい武器として見る中、八郎だけは違う未来を見る。
必要なのは鉄砲だけではない。
職人。
産業。
物流。
国を豊かにする仕組み。
飯作りから始まった小さな改革は、いつしか戦国の勢力図を
変えていく。
前世では何者にもなれなかった男。
二度目の人生では、自分の知識と経験で人を救い、土地を育て、
やがて一国を動かす存在へ。
これは庄屋の八男として生まれた八郎が、
戦国の世を飯と知識で成り上がる物語である。
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