幸せを願い、ただ静かに応援する。
それが、僕にとってのすべてだった。
推しVtuber・紫月らむ。
顔も、部屋も、私生活も知らない。
知っているのは、配信越しに聞いてきた――あの声だけ。
それでも、彼女を推す時間は、確かに僕の人生だった。
ある日、とある神社で手を合わせる。
願いはただ一つ。
「推しが幸せでありますように」
次の瞬間、視界が歪み、意識が遠のく。
目を覚ますと、僕は――彼女の愛用するぬいぐるみの中にいた。
声は出せない。
名前も名乗れない。
動けるのは、ほんのわずかなジェスチャーだけ。
それでも、推しの声はすぐそばにある。
配信が終わったあとの、少し力の抜けた声。
疲れを隠しきれない日の、間の取り方。
推す側の目線で、推される側の孤独を知る。
そして、配信に来なくなった「いつもの一人」を、
紫月らむはどう思うのか。
これは、認知されるための物語ではない。
名乗らず、越えない距離で、それでも確かに“いっしょにいる”。
推しの幸せを最優先にした僕が、
ぬいぐるみとして彼女のそばに在り続ける物語。
――だから、僕は名乗らないことにした。