「人質花嫁に価値はない。生きて戻る算段は不要です」
そう言って祖国は、第二王女ミレイユを敵国へ差し出した。
婚礼の翌朝。内側から施錠された寝室で、目を覚ました彼女の胸の上に、黒い封書が載っていた。
『死亡予告 明日正午、皇帝は祝宴で乾杯の杯を飲み、毒によって死亡する。
本状を破損した場合、死亡時刻は破損した時点まで繰り上がる』
差出人はない。届く先はミレイユだけ。毎朝一通、翌日の死をただ一件だけ告げる。
彼女に武器はひとつしかない。一度会った人の顔と、その人が話したことを、決して忘れないこと。
祝宴の給仕は、婚礼の夜「右手を火傷して杯が持てない」と話していた。なのに今、布を巻いているのは左手だ――。
冷酷と噂される皇帝は、婚礼の誓約の直前、ただ一度だけ彼女に選ばせた。「拒むなら、今ここで言え」と。
その言葉があったから、彼女は自分の意思でこの国へ嫁いだ。そして今、その意思こそが、封書が彼女のもとへ届く理由になっている。
明日の死を、七度覆せ。
覆すたびに予告は書き換わり、次に死ぬのは彼女自身になる。
――これは、誰にも必要とされなかった人質花嫁が、自由を手に入れたうえで、自分の意思で皇后の座を選ぶまでの物語。