4月。
入学式の朝、勢多央《せた
おう》は自分のクラスの席を確かめて、
思わず動きを止めた。
最後列の右端。自分の席のすぐ隣に、
座っていた。
葛城《かつらぎ》みお。
正確に言えば、まだ半分しか座っていなかった。
折り畳まれた長い脚を窮屈そうに収め、背中を極限まで縮め、
まるでそこに自分がいないかのように、小さく、小さく、息を潜めていた。
けれど、どうしても隠しきれないものがある。
圧倒的な、高さ。
会話らしい会話もなく、最初の日は終わった。
二日目も、三日目も、大して変わらない。
ただ、少しずつ。
「……少し見えにくかったら、ごめんなさい」
「あ、いや。俺も似たようなもんだから」
そんな一言が積み重なっていく。
教科書の端が触れた、次の授業は何だっけ、図書委員が同じだった。
ありふれた偶然が、糸のようにつながっていく。
恋には、まだ遠い。
でも、何かが、少しずつ近づいている。
――勢多には、まだ知らないことがある。
みおの本当の身長のこと。
みおの家族のこと。
みおが今日も、背を縮めながら電車に乗っていること。
――みおにも、まだ知らないことがある。
隣の彼が、こっそり早起きをしていること。
腕時計を撫でるのが、緊張のサインだということ。
そして彼が、背の高い女の子に憧れていた、ということ。
高校生たちの日常を、ゆっくりと。
急がず、焦らず、少しずつ近づいていく物語。
※『カクヨム』でも同時掲載しています。