昨日まで、彼女は確かにそこにいた。
幼い頃からずっと一緒だった少女、ルナ・アステリア。
銀色の髪を揺らし、いつも半歩後ろを歩く彼女は、カイにとって当たり前の日常の一部だった。
「……明日も私の名前を呼んで」
そんな奇妙な約束を交わした翌朝。
ルナは、世界から消えた。
家族は彼女を知らない。
友人も、町の人々も、誰一人として覚えていない。
学院にも、町にも、彼女が生きていた記録は残されていなかった。
まるで最初から、ルナ・アステリアという少女など存在しなかったかのように。
それでも、カイだけは覚えていた。
声も。
仕草も。
自分の袖をつまむ癖も。
そして、昨日交わした約束も。
世界中が彼女を忘れても、カイはその名前を呼ぶ。
その一声が、決して触れてはいけなかった世界の秘密へ繋がっているとも知らずに。
これは、世界から忘れられた少女と、
彼女の名前を忘れなかった少年の物語。