「エドワード様のような方を型に嵌めようとするなんて。アイリス様、貴女は冷徹な人形でしかありませんわ」
信じていた親友セレーナに婚約者を奪われ、泥だらけのアメジスト色のドレスで雨の中に捨てられた公爵令嬢アイリス。
王都から「不貞の女」と虚偽の罪を着せられ、地位も名誉も、名前さえも奪われた彼女を拾い上げたのは、
「氷の辺境伯」と恐れられる北方の主、リュカだった。
魔法のないこの世界で、貴族の価値は「装いの気高さ」に宿る。
すべてを失ったアイリスだったが、彼女の指先に残された刺繍の技術だけは、誰にも奪えなかった。
「鏡が見たくないなら、俺を鏡にしろ。俺が美しいと言っている間は、お前は世界で一番の女だ」
無骨ながらも剥き出しの独占欲を示すリュカの庇護下で、アイリスは自分のための美しさを取り戻していく。
一方、彼女を追い出した王都では、アイリスという「真の美学」を失ったことで崩壊の足音が響き始め……。
これは、絶望の底にいた女性が、一針ごとに愛を紡ぎ、自分を裏切ったすべてを見返すまでの再生の物語。