世界中で発生した人体の一部が消失する事件。白い光に包まれた者は、その身体の一部あるいは全身が消失する。世界中の警察、科学者、果ては霊能力者までもが事件の解明に当たっているのだが、一向に手がかりすら掴めていないのが現状であった。消失時の痕跡もなく、人々は白い光が発生した場合は逃げるしか手立てがない。どこにも逃げ場はないというのに。
現在も多種多様な憶測が飛び交う中、多くの日本人はいつもの日常を送っており、世界的な消失事件であっても他人事として気にする者は少なかった。
しかし今年初めて日本でも消失事件が発生したことにより、日本人も危機感を覚えるようになった。それと言うのも、動画配信サイトや各マスメディアがこぞって消失事件を取り上げ、人々を煽っていたのも一因かもしれない。
かつて1999年の予言書の時のように。
デマとして信じない者と、世界の滅亡論者の両極端に別れたのも同じであった。
先日、俺の幼馴染の女友達が事件に巻き込まれた。白い光に包まれた小学生を助けるために身を挺して助けた際、彼女の左肩からスッパリと一部が消えたと言う。結果、失血性ショック死で亡くなってしまった。今日は彼女の四十九日法要の日。俺は彼女の勤務先であり、飼育担当だった場所の黒ヒョウの檻の前で、ひとり物思いに耽っていた。考えても考えても分からない。何故、彼女が対象になったのか。彼女の代わりに俺が対象であったなら。悔やんでも泣いても彼女が戻ってくる筈はないのに。
帰ろうと思い檻から離れた瞬間、俺は白い光に包まれて……
──一文字良(いちもんじ
りょう)、その名前が表すスキルを与えられた男と養子の次のライフステージ。