三十九歳の食品メーカー営業・相沢誠司は、ある日突然、週末だけ異世界の村へ転移するようになった。
だが、彼に剣の才能も魔法の力もない。
あるのは、営業職として身につけた「現場を見る力」だけだった。
井戸の水は足りているか。
倉庫の食料は湿っていないか。
病人と見張りに、同じ粥を配っていいのか。
避難民をどこに寝かせるのか。
誰が、どこで、何を見ているのか。
相沢は剣を抜くより先に、井戸を見て、倉庫を数え、広場に役割の板を置く。
最初は戸惑っていた村人たちも、少しずつ変わっていく。
前に立つ者。
森を見る者。
水を守る者。
倉庫を閉める者。
広場を戻す者。
やがて村を襲うのは、ただの魔物ではなかった。
火、水、声、煙、名前、人影。
村人を役割から外し、広場を壊そうとする赤い敵。
週末だけ異世界に行く営業マンは、村を救えるのか。
いや、彼が本当に作るべきものは――
自分がいなくても、朝を迎えられる村だった。