目を覚ますたび、私は「旦那さま」を忘れてしまう。
目の前にいるのは、灰色の瞳をした、美しい男性。
彼はいつも優しく微笑んで、「おはよう、フィオナ。君の夫のレオンだよ」と名乗る。
けれど、どれだけ見つめても、私の胸には何も残っていない。
王都を襲った大火の夜、私は全ての記憶を失った。
残ったのは、「この人と結婚した」という事実と、
毎朝レオンが差し出してくる、一冊の小さな日記だけ。
そこには、昨日までの私とレオンの時間が、丁寧に綴られていた。
一日ごとにリセットされる想い。
それでも諦めず、何度でも私に恋をしてくれる旦那さま。
やがて私は、忘れてしまうはずの胸の痛みを、忘れられなくなっていく。
これは、記憶を失った花嫁と、
毎日“初恋”からやり直す旦那さまの、
きっと世界でいちばん不器用で、いちばん優しい恋の物語。