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取得日時> 2026-06-19 20:09:06
追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~
王国軍には「雑用係」と陰で笑われる男がいた。
名前はレイン・アストラ。剣も魔法も使えない。彼がひたすら睨みつけていたのは、残りの兵糧、動ける馬、壊れた荷車、合わない帳簿——要するに、負け戦でどうやったら一人でも多く生きて帰れるか、その数字だけだった。
ルーデン平原での大敗。総崩れの撤退戦の最中、誰に命じられるでもなく混乱を静かに捌き、本来なら屍を晒すはずだった兵たちを大勢生還させたのは、この地味な青年である。
だが、軍議で称賛されたのは派手に剣を振るった者ばかり。上層部が欲したのは正確な戦況報告ではなく、補給混乱の責任を押しつけるスケープゴートだった。
こうしてレインは、北東のハルヴェイン辺境領へ左遷される。街道は崩れ、倉庫は空、兵は脱走済み、残っているのは妙に分厚い役所の帳簿だけ——誰もがとっくに匙を投げた土地だった。
「……まあ、まだ死んでませんし」
そう呟きながら、レインは帳面を開く。
足りないものと余っているものを数え直す。無駄な支出に線を引く。残すべき人間と、切るべき人間を分ける。倉庫、税、兵、街道、そして商人。ばらばらに転がっていた問題を、一枚の紙の上で静かに繋ぎ直していく。
派手な戦闘も、爽快な必殺技もない。あるのは、昨日より少しだけ背筋を伸ばした若き領主代理の姿と、月末にようやく出た銅貨三枚の黒字だけ。それでも、死にかけていた辺境の空気は、確かに変わり始めていた。
——一方、王都では。
レインが一人で抱え込んでいた仕事の重さに、誰も気づいていなかった。合わなくなる帳簿。遅れ続ける補給。いつの間にか消えていく兵。自分たちで尻拭いができないと彼らが思い知るのは、もう少し先の話である。
これは、敗戦処理の天才が、追放先の辺境から銅貨一枚を数えるところから始めて、静かに一国をひっくり返していく——地味で、しつこくて、容赦のない再建譚である。

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