「働かずに食う飯は美味いか?」「めちゃくちゃ美味いに決まってるわよね?」
親の小言に白米を頬張りながら満面の笑みでそう返してしまった玉織紬(たまおりつむぎ)は鉄拳制裁と共に毎食をもやしに変えられた。
大学を中退し、実家で生もやしを主食に生きる無職の玉織紬は、日雇いバイトすらまともにこなせない社会不適合者だった。
だが、胡散臭いVRMMO【エリュシオン・オンライン】の【特別】テスターに当選したことをきっかけに、彼女の人生は壊れた方向へ動き始める。
ゲーム内で選んだ種族は【グール】。
モンスターを喰らい、腐肉を啜り、毒すら美味へ変える【悪食】を武器に、紬は大樹海の魔物たちを片端から捕食しながら成長していく。やがて【ハイグール】への存在進化を果たし、エリアボスすら食い殺したその日から、異変は現実へも漏れ始めた。
傷は異様な速さで塞がり、嗅覚は鋭敏になり、生ゴミはごちそうへ変わる。
ゲームのスキルとステータスが、現実の肉体へ侵食し始めていたのだ。
普通の人間なら恐怖するはずの変化を、紬は歓喜で受け入れる。
素のままの自分では社会の粗大ゴミでしかなかった。だが、怪物の力があるなら、力仕事で稼ぎ、美味い飯にありつき、ようやく人生を前へ進めるかもしれない。
そうして彼女は、人間重機、人間ゴミ処理場、さらには新しく出現した現代ダンジョンの最終兵器となっていく
これは、
満腹を知らない女が、食うために進化し、進化した結果ますます人間社会から遠ざかっていく話。
そして同時に、
人間としては完全に落伍した女が、怪物としてなら案外うまくやれてしまう話である。