「あなたは自らの意思でこの婚約を解消した」——突きつけられた書類の署名は、たしかにわたくしの名前でした。ただし、わたくしの字ではありません。
馬車の事故で三年分の記憶を失った伯爵令嬢オリヴィアは、目覚めるなり「悪女」と呼ばれていました。婚約は解消され、家は叔父に握られ、弁明する記憶さえ残っていない。
けれど父から仕込まれた筆跡鑑定の目だけは、記憶より確かに手に残っていました。
インクの重なり。紙の簀の目。真似た字が持つ、わずかな遅さ。
オリヴィアは証拠を一枚ずつ確定させ、自分の潔白を自分の手で取り戻していきます。——冷徹な元婚約者ユリウスが、なぜあの書類に署名したのかも含めて。
第一部・全三十話。ハッピーエンドです。
泣いて訴えるより、証拠で黙らせるほうが好きな方へ。