九十八歳でその生涯を静かに終えた一人の女性——さくら。
過酷な青年期を生き抜き、厳格な夫と共に家庭を築き上げた彼女の胸には、「いつか居酒屋か定食屋をやりたい」という、ささやかだが消えることのなかった夢が残っていた。
そして思いも寄らぬことに、さくらは異世界へと転生する。
目を覚ました先で、魔獣「キャット・シー」の末裔に救われ、そこで出会った小さな子猫『きなこ』と心を通わせていく。
やがて相棒となったきなこと共に王都へと向かったさくらは、手探りながらも屋台を始め、料理を通じて人々と触れ合っていく。
香ばしく弾ける揚げ油の音、立ちのぼる湯気、そして笑顔を交わす客たち。
異世界での穏やかな日々は、やがて屋台から小さな店へと広がり、さくらが抱き続けた小さな夢はゆっくりと形になり始める。
王都の片隅で営まれるその温かな場所は、小さな灯火のように人々の心を癒していった。
しかしその一方で、彼女の持つ“どこか異質な知恵”や“奇妙にも映る振る舞い”に気づく者たちが、少しずつ現れ始める。
はたして、さくらに穏やかな日常は続くのだろうか——