伯爵家に生まれたリリアナは、王都でも稀な精度を誇る天才錬金術師だった。けれど夫エドガーは、彼女が夜ごと調合した高品質ポーションも魔導具も、すべて自分の功績として宮廷に発表していた。
舞踏会で「地味で重い妻」と笑われた夜、リリアナの中で最後の愛情が冷める。彼女は工房の鍵と調合記録だけを持ち、離縁状を置いて告げた。
「妻も、あなたの才能を作る役目も辞めます。今後、あなたのためにポーションも魔導具も作りません」
家を出たリリアナは、辺境伯セドリックに拾われる。彼は効能の高さだけでなく、不純物を残さない濾過、失敗品を混ぜず廃棄する記録、使う兵士の体質まで考えた処方に気づいた。
「君の錬金術は、人を守るための仕事だ」
初めて自分の名で依頼を受けたリリアナは、辺境の町で星濾工房を開き、薬と魔導具、記録と説明札、そして休める仕組みを作っていく。一方、リリアナの功績を奪っていたエドガーは納品を満たせず、虚偽の報告と危険な失敗品を隠した事実を暴かれていく。
これは、夫の功績にされていた天才錬金術師が、妻を辞め、自分の名で人を守る工房を育てていく物語。