公爵令嬢セレナ・アシュフォードは、十年にわたり王都の結界を直し続けてきた。
辞令も俸給もない。王太子の婚約者として、頼まれるままに引き受けていただけだった。
大夜会の夜、その婚約が破棄される。理由は「王妃には、分かりやすい力が必要だから」。
セレナは反論しなかった。代わりに、こう告げた。
「婚約者でなくなる以上、私的に引き受けていた補修は本日で終了いたします」
向かったのは、三か月前に調査を頼まれたまま行けずにいた北の辺境。
待っていたのは、崩れかけた古い結界と、増え続ける魔獣と、
「君が指示しろ。俺たちが動く」
会って半日でそう言う、辺境伯カイル・ヴァレンシュタインだった。
セレナが異常を見つけ、カイルが斬る。
村の結界を直し、橋を守り、二人はやがて、今の地図には載っていない巨大な結界網へ辿り着く。
一方、王都では小さな不具合が増え始めていた。
誰も怠けてはいない。ただ、一人に頼りきっていた仕組みが、その形を見せ始めていた。
「君が守るなら、俺が戦う」
役に立つことでしか自分の価値を測れなかった令嬢と、
自分が前に立つことで守ろうとする辺境伯の話。