王都の下町で錠前店を営む青年ヨナスは、鍵に触れるだけでその合鍵を作れるスキル《合鍵》の持ち主だ。祖父に叩き込まれた錠前の腕で、締め出された人の扉を開け、壊れた錠を直して暮らしてきた。ある夜、王立宝物庫の錠が、壊されずに開けられた。「鍵を壊さずに開けられる者が、王都に何人いると思う」――宝物庫長の一言で、ヨナスは盗みの罪を着せられ、戻った者のいない地下の監獄「グラウ迷宮牢」に終身で落とされる。背後で閉まった門の錠に、ヨナスはそっと手を当てた。三つ数えると、手の中に鍵ができていた。……出ようと思えば、いつでも出られる。けれど泥棒の名のまま出たら、祖父の看板に泥が付く。それに、迷宮牢の底には、三百年誰にも開けられなかった扉があるという。錠前師が一度は見てみたい錠だった。開かずの扉の向こうで目を覚ましたのは、背中に巻き鍵の穴を持ち、三百年主を待っていた自動人形の番人と、迷宮を動かす百八の鍵穴。囚人たちの暮らしが変わり、看守が慌て、宝物庫長が青ざめる中、ヨナスは今日も錠を見ると開けてみたくなる。
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