王立リオラ学院の薬術科2年、フィリア・ノクスレイは周囲から「落ちこぼれ」と笑われていた。
実技試験では、ある理由で薬効が規定に届かない。
だが、薬草の性質や副作用を読む力だけは、誰にも負けていなかった。
ある日フィリアは、学院中の憧れである魔術科首席ノア・クラウゼルが、医務室の薬でも治まらない不調に苦しんでいると知る。
苦しんでいる人を放っておけない彼女は、名前を隠し、古い温室「月庭」の棚に薬を置いた。
その薬は、ノアの苦しみに確かに届いてしまう。
以来、ノアはその名もなき調薬師を探し始める。
落ちこぼれと笑われる私の薬だけが、学院の天才を救ってしまった。
正体だけは絶対に知られてはいけない。
月庭の匿名薬師。
それは誰にも評価されなかった少女が、誰にも治せない不調を癒やしていく、もうひとつの名前だった。