三十二歳、学校歯科健診の帰りに子どもを庇って事故死した歯科衛生士・早瀬莉奈。目を覚ました先は、真っ白な転生窓口だった。
告げられた転生先は、チートなしの「凡人枠」。剣も魔法も聖女の癒やしもなく、持っていけるのは前世の記憶と実務経験だけ。しかも異世界の王都では砂糖菓子の流通が増える一方、虫歯や歯痛は「甘味の悪霊」と呼ばれ、祈って抜くことが治療とされていた。再生魔法はある。だが、平民には高すぎる。
リナ・カーレンとして三十五年。前世の記憶を少しずつ取り戻した彼女は、歯木、染め出し液、歯みがきカード、口の観察記録こと「おくちメモ」を作り、菓子工房の少年ルカが抜歯されそうになる場面で声を上げる。
歯の痛みは、呪いではない。
魔法ではなく、水を飲む。奇跡ではなく、磨き残しを見えるようにする。聖なる剣ではなく、普通の歯ブラシを持つ。
これは、前世が歯科衛生士だった凡人枠転生者が、王都の子どもたちを「痛くなる前に守る」仕組みを作る、その奮闘のお話。