月の残業時間、百二十時間。最後に有給を取ったのは三年前。
入社十二年目の社畜・鈴木誠一(三十四歳・独身)は、深夜のオフィスで倒れた。
過労による急性心不全——つまり、過労死。
「……これが死か」
諦めかけたその時、目の前に現れたのは、銀髪に紫の瞳を持つ、息を呑むほどの美少女だった。
黒いローブを纏い、身の丈を超える大鎌を持つ彼女は——死神。
「お前の寿命、まだ残っている。書類ミスだ」
どうやら、天界の事務処理にエラーがあったらしい。
本来の寿命は八十二歳。俺はまだ死ぬべきではなかったのだ。
そして、死神の少女——クロハは、無表情のまま告げた。
「お前には監視役をつける。私だ」
「……え?」
「健康的な生活を送るまで、私がお前を監視する。もし不健康な生活を続けるなら——その時は、正式に迎えに来る」
こうして始まった、美少女死神との奇妙な同居生活。
朝五時半に鎌で叩き起こされ、強制ウォーキング。
カップ麺禁止、野菜中心の自炊生活。
残業しようとすれば「死んだら残業もできないぞ」と正論で黙らされる。
……なんで死神に健康指導されてるんだ、俺。
しかも、クロハは他人には見えない。
つまり、風呂もトイレも寝室も——全て共有。
無防備な姿を晒されるたび、俺の理性は限界を迎える。
「鈴木。お前の魂、今すごく輝いているぞ」
「……それは多分、お前が思ってるのとは違う理由で」
「? とにかく、良い傾向だ」
どうやらクロハには、人間の「煩悩」という概念がないらしい。
俺の邪な感情を「魂の輝き」と勘違いしている。
……これ、俺が先に理性で死ぬんじゃないか?
無表情だけど、どこか抜けてる死神少女。
少しずつ人間らしくなっていく彼女と、健康になっていく俺。
二人の距離は、季節が変わるごとに、少しずつ——。
これは、過労死しかけた社畜が、美少女死神に「生きること」を教わる物語。
そして、永遠を生きる死神が、初めて「人を想う」ことを知る物語。