『新たなシナリオが解放されました。新機能が解放されました。強くてニューゲームとなります。ダウンロードを行いますか?』
サービス終了の間際になってシステムからこんなメッセージが届いた。
このフルダイブVRMMORPG『ティルナノグ』をサービス開始直後から毎日欠かさずやり込んできた月読朧(つくよみ おぼろ)は一も二もなく『はい』を選択した。
こんな質問をされて迷うと言う選択肢など――ない。
朧はそれほどまでに『ティルナノグ』にのめり込み、信頼できる気の置けない仲間たちと共にゲームを攻略してきたのだ。
クラン〈黄昏の帝國(トワイライト・アルカディア)〉の盟主として覇王ムーブを楽しみながら。
共に笑い、共に怒り、共に悔しがり、時には喧嘩をして多くの感情を共有してきた。
それは生活の一部ではなく最早、生活そのものになっていたほどの生粋のゲーム狂、それが朧であった。
そして『ティルナノグ』は午前0時を持ってサービス終了の刻を迎える。
しかし――時刻はとっくに過ぎたはずなのにゲームが終了する気配はない。
もしかすると新サービスが開始されたのかと考えた朧であったが、それは即座に否定される。
次々と起こる不可思議な出来事によって。
ログアウトもできず、GMへの連絡も届かない。
そしていつもにも増して鮮明になり、研ぎ澄まされた感覚。
1人、玉座の間にいた朧の元へ駆けこんでくるNPC。
その表情や仕草、言動に至るまで何から何までゲームでは有り得ない光景。
明らかになる未知なる異世界。
混乱する朧に臣従する仲間たちと作ったNPCたち。
突如として侵攻してくる未知の軍団。
夢でも幻でもないと理解した朧は、この異世界でレックス・オボロ・マグナとして第2の人生をスタートさせることとなる。
これは覇王ムーブを強いられることとなったレックス(朧)が、気苦労と部下の暴走と戦いながら異世界で奮闘し、変わり、全てを蹂躙してゆく物語。
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