とある歪な家族は姉娘を『捨てた』。
それは聖女と判定された妹娘中心の家族にとっては日常の延長線上だったが、街道の途中で馬車から放り出して置き去りにする事など殺そうとしたと同じ事だ。
その日、見切りをつけた姉娘は家族と自分を『捨てた』。
「やっと自由か……」
交易地として人の行き来が激しいとある領都で代筆屋を開いたのは、クラリス・ウェリアという成人したばかりの女性だった。
領主の侯爵家の遠縁となっているだけで、前歴は一切不明。
あの年齢で店を持った事や、開いた時点で既に常連客がいたり、不思議な点は他にもいくつかあるものの、領都の忙しさの中では気にする人はいなかった。
その同時期に『死んだ』クラウディア・ウォーゲルと繋げる者も当然いなかった。
クラリス(クラウディア)は、前世持ちである。
だからと言って何かを生み出すような能力には恵まれなかったが、前世がある分だけ冷静で数字に強く、多彩な事が出来た。無能な両親にはそのおかげで搾取されたものの、クラウディアは絶対スキル『読書家』の保持者である事だけは家族に隠し通した。
「この手紙の真意は何?」
「愛しているので連れ去ってです」
「一度挨拶しただけで……」
絶対スキル『読書家』は文字や文章から相手の思い、伝えたい事を正確に読み取るものだ。それがたとえ書き切れなかったものであったとしてもくみ取り、クラリスは伝えられる。
故に宰相家である侯爵家の庇護下に置かれながら、クラリスは代筆屋を営み、細々と生きていこうと思っていた。
「皆様、私の残した手紙の意味はお分かりですか?」
四十年前に失踪したエメライア姫の手紙が公開された。
それを皮切りに、尚もエメライア姫や聖女を利用しようと企む神殿の暴走、第三王子周辺の奇妙な状況などが次々に明るみに出て来る。
それらは本来クラリスには無縁の物であったが、聖女の手は『真実を読み取る者』としてクラリスに伸ばされる。
エメライア姫は幾つもの手紙を残していた。
表面上の真実を隠す事にとらわれた王家はその手紙に気付く事すらなく、エメライア姫の真意もまた闇の中だった。
クラリスが読み取るエメライア姫の真実は、ただ目を逸らすだけだった王家に間違いを突きつける。
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