王宮舞踏会で、王太子ナルキスは婚約者ジュネーヴァ・ミリオンに「悪女」の烙印を押し、婚約破棄を宣告した。ジュネーヴァは帝国方伯家の令嬢にして、王国に一億八千万ディナールを貸し付けた金貸し。両家の婚姻は返済猶予の絶対条件として国王自身が署名した契約であり、契約書を読まずに婚約破棄受理書へ署名した瞬間、国家予算三年分の即時返済義務が発生した。利息はトイチ、十日で一割。
王太子は無期限謹慎、王国は国庫破綻寸前。増税は全領地へ波及し、貴族たちは誠実さに応じて契約で処理されていく。視察先で出会った王女ダフネ・ローレンシアは、「敵にも味方にも、私はなりません。私は金貸しですわ」と告げるジュネーヴァに、取引相手としての敬意を抱いた。
国王が御前会議で倒れ、謹慎を解かれたナルキスは復権するや、銀貨の品位を十分の一に落とす『改鋳令』を発令する。先王は娘ダフネに「あの令嬢を敵に回すな。利息で返せ」と遺し、息を引き取った。
決着の朝、ナルキスは『先王の私的契約は逝去で消滅した』と思い込み、ジュネーヴァの差し出した書類に署名する。それは『相続放棄申述書』であった。王太子は王位継承権を失い、債務だけが手元に残る。空席に立ったのは妹ダフネ。新王太子は改鋳令を撤回し、既往利息棒引きと引き換えに『ローレンシア中央銀行』設立をジュネーヴァと合意した。理事の過半数指名権を握ったのは、ミリオン方伯家である。
帝国へ戻ったジュネーヴァの机には、新たな融資依頼が届いている。彼女はペンを取った。「次の案件ですが」。
カクヨム
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