北海道の農業大学に通う大学生・坂田遊里は、大学構内で野生のエゾシカと衝突する交通事故に遭い、命を落としてしまう。
ところが、目を覚ました遊里がいたのは現代日本ではなく、石畳と馬車、武装した兵士が行き交う異世界だった。
そこで彼女は、この世界では異世界から来た者を「迷い鳥《フェアローレナー・フォーゲル》」と呼ぶことを知る。
黒い髪と瞳、見慣れない衣服、そして本人の名前すらこの世界では「国を持たぬ放浪者」を意味する言葉として受け取られてしまった。
そんな遊里の前に現れたのは、金羊毛騎士団団長にしてマルク伯という高位貴族・ヨハン。
しかも遊里は、東方辺境伯、大公、そして神聖帝国皇帝を兼ねる皇帝陛下から直接招かれていた。
なぜ、ただの農業大学生である自分が皇帝に呼ばれるのか。
その疑問を抱く遊里に、ヨハンは過去の「迷い鳥」について語る。
過去の迷い鳥たちは、農業技術、衛生、教育、行政、印刷、航海術、さらには軍事技術まで、異世界の知識をこの世界へ持ち込んできた。
その結果、国を豊かにした者もいれば、王位を奪い戦争を引き起こした者、莫大な富を築いた者、そして国そのものを滅ぼした者までいた。
つまり、迷い鳥とは「幸運をもたらす異世界人」ではない。
その存在だけで、国の未来を大きく変えてしまう危険な存在だった。
「迷い鳥が降り立った場所で、何も変わらなかった例は一つもない」
ヨハンの言葉に、遊里は自分が皇帝に呼ばれた理由を理解し始める。
そして彼女は、神聖帝国の風習に合わせて女性用の正装へ着替えさせられ、豪華な馬車で帝都ヴィーナーへ向かうことになる。
道中、遊里は街に刻まれた「A.E.I.O.U.」の文字を目にする。
それは、十五世紀のハプスブルク家と神聖ローマ皇帝フリードリヒ三世にゆかりのある有名な標語だった。
そこで遊里は、自分が迷い込んだ世界が、まるで歴史上の神聖ローマ帝国そのもののような場所だと気づく。
さらに、皇帝からの特別待遇を受けながら、温泉や豪華な食事を楽しむ遊里。
しかし、その裏側には明らかに何か大きな思惑がある。
なぜ皇帝は、異世界から来た農業大学生をわざわざ招いたのか。
何を期待しているのか。
そして――何を恐れているのか。