夜会の席で、侯爵令嬢アエミリアは、自分のために仕立てられたはずの深紅の花嫁衣装を、別の女が着ているのを見た。
怒りをぶつけた直後、婚約者は彼女を「浪費家で嫉妬深い悪女」と断じ、衆人環視のなかで婚約破棄を宣言する。
突きつけられたのは、アエミリア自身の署名が入った多額の支払書。
署名は本物。金が消えたのも本当。彼女が女を侮辱したのも事実だった。
誰もが勝ち目はないと和解を勧めるなか、アエミリアは王都の法院通りで、机一つを置いて依頼人を待つ男を訪ねる。
名はヴァンフリート。貴族にも法院にも容赦なく噛みつく、腕は確かだが口は最悪の代言人だった。
「署名は本物。金も消えた。お前も女を罵った。ここまでは全部本当だ。だから妙なんだよ。嘘が一つもないのに、出来上がった話だけが胡散臭い」
彼が争うのは、起きた事実ではない。
誰が金を使ったのか。誰が利益を得たのか。そして、誰が事実へ都合のよい意味を貼りつけたのか。
事実は残す。責任は分ける。余計な罪名だけを剥がす。
これは悪女を聖女に書き換える物語ではない。
誰かに作られた“悪女の物語”を、証拠と毒舌で解体する婚約破棄×法廷ミステリー。