先祖が滅びれば、自分は生まれない。
波座透は、ごく普通の歴史好きな大学生だと思っている。
八百比丘尼に命を助けられた(らしい)ことと、鎌倉以来の武家の末裔であること以外は。
目標は健康で長生きすること。
二年生の春。
歴史文化研究会に現れた新入生・九条要は、群を抜いた容姿と才覚で注目を集める存在だった。
――そしてなぜか、要は透にだけ執着する。
まるで、過去も未来もすべて知っているかのように。
違和感を抱えたまま迎えたある日、透が階段から落ちかけた瞬間、八百比丘尼から授かった鈴が鳴る。
気づけば要とともに、戦国時代にいた。
そこで出会ったのは、自らの遠い先祖――波座又兵衛。
武功を立て、名を上げることだけを望む、ごく真っ当な武士。
だが彼はなぜか、選ぶ先々で「やがて滅びる家」に辿り着いてしまう。
偶然にしては、あまりにも出来すぎた巡り合わせ。
先祖が滅びれば、自分は生まれない。
透は、歴史を変えることを選ぶ。
だが戦国と現代を行き来する中で、透は気づいていく。
要の言動が、“歴史を知る者”のそれではない。
――それはむしろ、
歴史そのものを生きた者の視線だった。
なぜ要は、透に執着するのか。
なぜあの日、鈴は鳴ったのか。
やがて明らかになるのは、
過去と未来が閉じた、一つの円環。
すでに歴史は、一度終わっている。
それでも透は選ばなければならない。
先祖を救い、自分の生を繋ぐのか。
それとも――すべてを知る男の望む結末に、従うのか。
*本作は史実をもとに構成していますが、物語の性質上、一部に独自の解釈および創作を含みます。