高尾山にダンジョンが出現して、十五年。
探索者だった両親を亡くした幼い少年に残されたのは、戦う力ではなく、二人が書き残した一冊の植物図鑑だけだった。
剣は振れない。
魔法も使えない。
魔物を倒すなんて、絶対に無理。
それでも生きていくため、少年はダンジョンの浅い階層で薬草や食用植物を採り始める。
そんなある日、魔物から逃げていた少年は、腰を抜かして動けなくなっている一人の老人と出会った。
年金だけでは暮らせず、生活費を稼ぐためにダンジョンへ来たという、血のつながらない“じいちゃん”だった。
「じいちゃん、戦えるの?」
「……若いころならな」
「今は?」
「植物を採って帰ろうか」
戦えない少年と、戦えないじいちゃん。
二人は魔物から逃げながら、毎日ひたすら植物を採った。
一本でも経験値は入る。
ただし、ほんのわずか。
けれど、毎日百本、千本と採り続けたら?
元農家、元大工、元看護師、元料理人――。
行き場を失った老人たちも少しずつ仲間に加わり、誰にも必要とされないと思っていた人生経験が、ダンジョンで思いがけない力へと変わっていく。
これは、戦えない少年が植物図鑑を頼りに生き延び、血のつながらない家族を作る物語。
そして数年後。
少年を守ろうとしたじいちゃんが、上級の魔物を一撃で吹き飛ばした。
「……じいちゃん、いつからそんなに強かったの?」
「わしが聞きたい」
地道な採取と長年の積み重ねは、いつしか彼らを誰も追いつけない場所まで連れてきていた。