「リリアーナ・エルヴェール。君との婚約を、今この場で破棄する」
王宮夜会の場で、公爵令嬢リリアーナは王太子ユリウスから婚約破棄を告げられた。
理由は、妹セレーネへの嫌がらせ。
もちろん濡れ衣だった。
けれどリリアーナには分かっていた。
妹の涙から漂う甘い優越感。
王太子の言葉に混じる、腐った果実のような嘘の匂い。
そして王宮の奥から漂う、焦げた薔薇のような不吉な香り。
「匂いしか分からない無能令嬢」と笑われ、家族にも見捨てられたリリアーナは、公爵家を出て、亡き祖母が残した王都の端の小さな香水店を開く。
店の名は、夜明けの瓶。
眠れない下働きの少女。
夫の嘘に苦しむ貴婦人。
毒を盛られた侯爵夫人。
彼女の香水店には、王都中の秘密と悩みが少しずつ集まっていく。
そんなある日、店を訪れたのは「冷血公爵」と恐れられる辺境公爵ヴァルト。
彼の体からは、リリアーナが夜会で嗅いだものと同じ、焦げた薔薇の呪いの匂いがした。
「君の鼻が必要だ」
「私はもう、誰かの所有物にはなりません」
「ならば、店主として契約してくれ」
リリアーナはヴァルトの呪いを解くため、彼と契約婚約を結ぶ。
表向きは公爵の婚約者。
裏では、王宮に隠された嘘と呪いを暴く共犯者。
捨てられたはずの令嬢は、香りで人の嘘と運命を嗅ぎ分ける。
これは、無能と笑われた調香師令嬢が、自分を捨てた者たちに「もう遅い」と告げ、冷血公爵に不器用に溺愛されながら、王都の端から人生を取り戻していく物語。