「君なら黙って記録するだろう」
王宮夜会の片隅で、臨時記録係のミラ・ノートンは王子殿下にそう言われた。
だから、黙って記録した。
公爵令嬢アデラインへの断罪。
男爵令嬢ロザベルの証言。
「余計な反論は書くな」という削除命令。
そして、証言の時刻が合わないことも。
奨学金を止めようとした本当の発言者も。
ミラは王子を倒したかったわけではない。
正義のために立ち上がったつもりもない。
ただ、後で「言っていない」と言われると困るので、発言を残しただけだった。
けれど、その一冊の議事録は、王子の嘘をその場で崩した。
婚約破棄されたはずのアデラインは、静かに微笑む。
「私、公爵位を継ぐことにしましたの。最初の仕事は、王国中の嘘を記録に戻すことです」
その翌朝、ミラはロシュフォード公爵家の馬車に乗ることになる。
消えた孤児院予算。
偽造された議事録。
王妃殿下の慈善事業。
そして、なぜ自分があの夜の記録係に選ばれたのか。
議事録は味方を選ばない。
ただ、発言を残すだけ。
ミラ・ノートンは今日も黙って記録する。
その紙の上で、嘘をついた人たちが勝手に追い詰められていく。