「針仕事で日銭を稼ぐような令嬢を、妻には迎えられない」
婚約者様にそう仰られましたので──あら、それでしたら遠慮なく。私、お店を持ちますわ。
財産は、亡き母に仕込まれた針一本。そして私の縫う服には、ふしぎと小さな祝福が宿ります。
転ばない裾。嘘を弾く襟。涙を隠すヴェール。
「勝負のドレスを」とご注文なさるお客様の本当のお悩みが、勝負とはまるで別の場所にあったりもして。王都の路地裏の小さな店には、今日も事情を抱えたお客様がいらっしゃいます。
「──どんな祝福も、俺の上では一晩と保たずほどける。それでも、仕立てられるか」
とびきり難しいご注文の公爵様がいらしたのは、開店から三月目のことでした。