傷付いた仲間が横たわっていた。
先刻まで笑顔を見せ、ともに戦ってきた戦友。
背中に致命傷を受けた彼は、
もう言葉を発することもないだろう。
流れ出た血液が懐かしい思い出とともに溢れ出る。
こんなはずではなかった。
廊下に備え付けられた明かりが風で煽られ、
冷気が鎧の隙間から抜けていく。
城の防備は万全だと聞かされていたし、
自分でもそう思っていた。
ひしと剣を握りしめる。
揺らめく刃先を正面に向けようとしたが、
あれだけ研鑽を積んだ日々を裏切るかのように
手の震えが止まらない。恐怖にすくんだ足が重い。
牛頭に鋭い双角。眼前に佇む巨躯の魔物。
人間のように二足で立ち、
両手には鍔のない刀を一振りずつ。
心臓を貫いた刀の根元、血泡が弾ける。
戦友の背中からそれを引き抜くと、
光の無い双眸がこちらに向けられた。
そんな魔物のゆっくりと歩き出す動作に、
脈動する自身の心臓が凍てつく。
床を踏みしめる重い響き。絨毯に広がった鮮血。
薄汚れた廊下の奥で、悲鳴にもならない声が漏れた。
震える剣を振る間もなく、凶刃に体を引き裂かれる。
凍てついたはずの自分の血は、思ったよりも暖かかった。
止めどない吹雪がふきあれるこの地より、遥か遠い場所。
とある教会で一人の捨て子が拾われた。
夜空の色をその目に宿す。
後に、目に映るすべてを救ったとされる子ども。
混乱を収め、万世を平和に均した彼の者たちと、同じ力。
この物語はその少年が歩んだ軌跡。
魔王を巡り、星を救う。
少年たちの冒険譚である。