完璧令嬢リリスは、生まれた瞬間から勝ち組だった。
少なくとも、そう見えるように生きてきた。
王国三大貴族タロシア公爵家。
莫大な財産。
魔女と称された母の美貌。
優しく、それでいて有能な父の血。
学院では常に首位。
社交界では微笑むだけで空気が変わり、領地経営では王族すら頭を下げた。
誰もが彼女を「理想の令嬢」と呼んだ。
けれど、その完璧さは、生き延びるための仮面だった。
誰にも弱音を吐けず、失敗も許されず、笑顔を貼り付けたまま。
リリスは、ただ一度も「自分」として生きたことがなかった。
積み重なる期待。
終わらない自己否定。
眠れない夜と、耳鳴りのように響き続ける。
「誰も、私を愛してなどいない」という声。
そして、ある日。
限界を越えた彼女は、自分の意思で、取り返しのつかない罪を犯した。
それは計画でも策略でもなかった。
壊れかけた精神が、衝動的に選び取った行動。
姉、準太子妃毒殺未遂という、決定的な過ち。
弁明はできなかった。
言い訳も存在しなかった。
罪は事実であり、彼女自身が、誰よりもそれを理解していた。
姉、準太子妃と、継母の温情によって死刑は免れた。
だが、地下牢で与えられたのは赦しではなく、
自責と孤独だけの時間だった。
名誉も、誇りも、未来も。
削り取られ、空っぽになった夜。
リリスは、静かに喉を裂いた。
それで、すべてが終わるはずだった。
目を覚ますと、世界は二年前に巻き戻っていた。
学院入学式の朝。
まだ、罪を犯す前の自分。
奇跡のような二度目の人生。
けれど、胸に残っていたのは希望ではなく、
罪の記憶と、死の感触だけだった。
これは、
救われる資格がないかもしれない少女が、
それでも、もう一度生きてしまう物語。