「私は可愛い。だから愛される」
パシュテール伯爵家の次女エステル・パシュテール、十六歳。この国で誰よりも美しく可憐な令嬢である――と、彼女自身は本気で思っている。
けれどその完璧な美貌も礼儀作法も学業成績も、実は毎朝一時間以上かけたスキンケア、何年も鏡の前で作り込んだ表情、血の滲むような自己研鑽の賜物だった。愛想を振りまく理由はただ一つ。「守られなかった過去」があるから。
十年前、魔物に襲われたあの日、父が咄嗟に抱き上げて逃げたのは異母姉のリアーナだった。それ以来エステルは決めたのだ。誰も守ってくれないなら、守りたくなるくらい愛される存在になればいい、と。
そんな彼女にある日突然降ってきたのは、異母姉の婚約者・アルベリクからの求婚だった。望んでもいないのに「姉から婚約者を奪った悪役令嬢」というレッテルを貼られてしまう。
でも大丈夫。合理的に、冷静に、最短ルートで評判も立場も立て直してみせるから。
物乞いの少女を才覚だけで見出して専属侍女に抜擢し、優柔不断な婚約者は手のひらで転がし、悪意ある噂さえも手を汚す事なく握りつぶす――完璧な生存戦略を実行するエステルの前に現れたのは、公爵家三男・リュカだった。
「面白い見せ物を見かけてな」
人を試すような目で笑う彼の登場が、これまで誰にも崩されたことのなかったエステルの仮面に、小さなひびを入れ始める――