王族の血脈を持つクレイモント大公マースデン家の長女
セシリア・フィリス・リル・マースデンは完璧な貴族令嬢だった。
所作、立ち振る舞い、会話、ダンス、マナー、全てにおいて幼少の頃より
しつけられている。
社交界デビュー3年目となる今シーズンには婚約、そして、結婚のはこびとなるだろうと貴族社会全体が注目していた。
大公を父親に持つ彼女が嫁ぐのであれば、それは公爵か、のちの公爵になることが約束されているような侯爵。最低でも、公爵領に匹敵するほどの優良な領地を持つ伯爵だ。
だが彼女はその胸の内に
"
憧れの人
"
への想いを密かに抱いていた。
決して叶わないだろう未来に、彼女が唯一望んだのは
ただ
"彼の瞳の色を知りたい
"という小さな願いだった——