ヴァルクール侯爵家の長女エリナは、雲、虫、土、水脈の変化を記録し、領地の洪水を人知れず防いできた「雨読み」だった。けれど家族も婚約者も、空を晴らす華やかな祝福を持つ妹ミレーユばかりを称え、エリナの警告を臆病者の言い訳と笑う。
ついに公開評定で婚約も役目も妹へ譲れと命じられたエリナは、雨帳を閉じた。
「わかりました。もう、あなたたちのために空は読みません」
故国を離れた彼女が旅の途中で救ったのは、干ばつに苦しむ隣国の公爵カイルだった。奇跡を求めず、観測の根拠を聞き、避難命令の責任を自ら引き受ける彼のもとで、エリナの地味な知識は井戸を蘇らせ、鉄砲水を止め、領民の暮らしを変えていく。
一方、エリナの雨帳を失った故国では、妹の祝福だけでは防げない災害が連鎖し始めていた。
これは、ずっと二番手にされた女性が、自分の仕事に正当な名と対価を取り戻し、誰かの犠牲ではなく対等な伴侶として最優先に選ばれるまでの物語。