王太子殿下に婚約破棄を宣告された公爵令嬢リゼルは、泣くでもなく、怒るでもなく——一冊の帳簿を取り出した。
「婚約期間中にわたくしがお預けしたもの、全てを精算させていただきます」
魔力の供与、政治的譲歩、社交界の裏方作業。当然のように受け取っていたそれらの全てに、対価がある。一行読み上げるたびに会場の空気が凍り、王太子の顔色が変わっていく。
精算の噂は瞬く間に広がり、辺境伯から領地経営の相談が舞い込む。帳簿しか武器を持たない令嬢と、荒廃した領地を抱える辺境伯。二人の協力関係は、やがて王都を凌ぐ経済圏を生み出していく。
王太子が失ったものの大きさに気づいた時、彼女はもう——振り返る理由を持っていなかった。