土星の衛星タイタン。
氷と液体メタンに閉ざされたその湖の底で、知性は静かに芽吹いていた。個体同士の境界を超えて調和し、振動を通じて思考を編み上げる存在。争うことも、捕食することも知らず、環境との調和の中でただ存在し、問い続ける生命——エリディアン。
彼らは、生存のために他者を犠牲にする必要がなかった。ただ、限りなく透明な世界で、自分たちを取り巻く宇宙に耳を澄ませ、そこに秩序と意味を見出そうとしていた。
そんな彼らの静かな世界に、人類の探査機が降り立つ。
探査機の発するリズムが、エリディアンたちの感性を刺激する。慎重なやり取りが始まり、それは文明と文明が初めて交差する瞬間となる。異質な存在同士が、互いに理解しようと手を伸ばしたその行為は、やがて光と振動を用いた新たな対話の形式へと進化していく。
しかし、物語はそこでは終わらない。
タイタンの湖底で始まった共鳴は、木星の巨大な嵐の奥深くへと導かれ、そこに眠っていたもうひとつの知性を呼び覚ます。
エリディアンと人類、そして木星の嵐に棲む存在——三つの異なる知性は、互いの持つ「問い」を交差させながら、やがて太陽系の外縁へと視線を向けていく。
この物語は、衝突ではなく共鳴から始まる。
生き残るためではなく、理解し合うために繋がっていく文明。
異なる存在が手を取り合うことで、自分たちの在り方すら変容させていく過程。
どこから来たのか、どこへ行くのか。
なぜ宇宙は、知性を宿し、それを広げようとするのか。
光と振動が交わる時、ひとつの星の湖底から始まった波紋は、やがて誰も知らない航路を描き出す。
この宇宙の静寂の中に、まだ見ぬ未来への共鳴が響いている。