不吉な灰色の少女。
不幸を呼ぶ少女。
母親を殺した少女。
そう言われ続けて育ったリリアナは、
人々に“いないもの”のように扱われて生きてきた。
そんな彼女の名前を、
初めてちゃんと呼んでくれた少年がいた。
王太子エリオス。
生きる希望を失っていた少女に、
彼は真っ直ぐ目を見て言った。
「俺を、生きる理由にして」
差し出すように紡ぎ出された
その言葉は、
リリアナに初めて“生きる理由”を与えた。
やがて二人は婚約する。
だが――
エリオスが二十歳になる前に、
彼は原因不明の病で命を落とした。
リリアナは思った。
自分が近づいたせいだと。
私と関わると、
私が大事に思う人は死んでしまう。
冷たくなったエリオスの亡骸の前で、
彼女は願った。
幼い頃、二人で見つけた
約束の指輪に。
「どうか、時を戻して」
気がつくと、
リリアナは子供の頃に戻っていた。
そして――
本来二人が出会うはずだった日、
エリオスはリリアナと出会えなかった。
それは、
リリアナが望んだ未来だった。
今度こそ――
エリオスに近づかない。
隣にも立たない。
恋も、未来も、手放す。
影から守るだけでいい。
そう決めた。
エリオスの婚約者には、
別の令嬢が立った。
きっと優しい彼は、
その人にも優しく名前を呼び、
愛をささやくのだろう。
それでもいい。
あなたが生きているなら。
私は、
その隣にいなくてもいい。
そう思っていた。
けれど――
運命は再び
二人を引き寄せようとする。
そしてエリオスの周囲では、
説明のつかない危険が
静かに重なり始めていた。
事故。
事件。
そして忍び寄る死の気配。
同じ運命を、
また辿るのか。
リリアナが再びエリオスに近づく時、
その先に待ち受ける悲劇を――
二人はまだ知らない。
そしてエリオスは、
理由も分からないまま
一人の少女から目を離せなくなっていく。
名前も知らないはずなのに。
なぜか――
心が、彼女を探してしまう。