四十一年前、日本に十七の迷宮が現れた。
国は迷宮公団を作り、坑道を測り、隔壁を建て、排水を通し、退避壕を掘って、荒れ狂う異界を「人が入れる場所」に変えた。
真柴勲は、その一期生。三十七年、第七迷宮の図面を引き続けた男である。
だが時代は変わる。民営化。「手つかずの自然迷宮」ブーム。整備は攻略の自由を損なうと嗤われ、設計部門は廃止――「安全第一は、時代遅れです」。
真柴は定年を待たず、静かに職場を去った。妻に先立たれ、空っぽの午後。
そんな彼が、孫に見せられた攻略配信の画面の中に、見覚えのある岩壁を見つける。若い探索者が、三十九年前に自分が埋め戻した袋小路へ入ろうとしていた。
思わず書き込んだ。「左は行き止まりです。右へ十五分で水場があります」。
――的中。
以来、ハンドル「烏口」は攻略配信のコメント欄に現れては、行き止まりを、休眠中の罠の点検日を、死にかけた排水の音を、退避壕の扉の開け方を、淡々と書いていく。
視聴者は騒ぎ出す。烏口って何者だ。なんで全部当たるんだ。
答えは簡単だ。――だってそれ、私が掘った迷宮ですので。
やがて運営会社が「営業妨害」と彼のアカウントを消した夜、大手クランが「自然の大瀑布」へ生放送で挑む。
真柴だけが知っている。あの滝は、自然ではない。
戦わない・潜らない・当てるだけ。定年設計士がコメント欄から攻略の常識を書き換える、実務系ダンジョン配信譚。