市井の仕立て屋で育ったミラは、布と採寸にしか興味のない変人だ。珍しい糸を見れば三日眠らず、人の体に巻尺を回せば、本人さえ忘れた癖や庇った古傷、口にしないなりたい自分まで読み取ってしまう。信条はただ一つ——みんなに合う服は誰のものでもない。たった一人のために測り、その体だけに合わせた一着こそが、その人の一生の味方になる。
ひょんなことから王宮の御用仕立て工房《衣装宮》に拾われたミラは、戴冠を控えて侮られる若き王に、欠点を隠さずむしろ生かす一着を仕立て、初めて彼をまっすぐ立たせる。片腕を失った騎士には、傷ごと胸を張れる礼装を。男だらけの宮廷に立つ女性官吏には、彼女が彼女のまま侮られない一着を。
「あたしは人生を仕立て直したりしない。最高の一着を作るだけ」——そう言い切るミラの仕事は評判を呼び、やがて若き王の戴冠式の正装一式を任される。たった一人のための一着しか縫わない職人が、王国の威信を背負う日、彼女の針はどこへ向かうのか。