【エトゥールの魔導師続編】
大陸全土を襲った大災厄は、天から巨大な星が降ってくるという前代未聞の事態だったが、後の世に「エトゥールの魔導師」と称される一団とエトゥール王の賢明な行動により、被害は最小限に抑えられたと言われる――。
そんな災厄後の世界で、10代半ばでエトゥールの敏腕商人として名が売れている少女リルは、日々を暮らしていた。リルには、ずっと後悔していることがある。
「大災厄」とよばれる災厄の前に、自分が原因で養い親であり導師(メレ・アイフェス)であるサイラスが命を落としたことだ。
彼の持っていた5体の小さな飛竜型の精霊獣(ウールヴェ)は、あの悲劇の日からずっと眠りについたままだった。サイラスが死んで、眠りについていたはずの精霊獣が、ある日突然目覚める。
――もしかして……。
リルは精霊獣の目覚めと導師(メレ・アイフェス)達の言葉に希望を持つが、期待は見事に粉砕されることになる。
自分を溺愛していた過保護な養い親が、地上での記憶を失ってちゃらんぽらんな脳筋男として戻ってきた。しかもリルの名前さえ覚えようとしない無関心な状態だ。
サイラスの師匠であるイーレは申し訳なさそうに、混乱するリルに言った。
「ごめんなさい。……昔のサイラスってあんな感じ」
原体(オリジナル)の記憶がない複製体(クローン)は、複製体(クローン)と言えるのか?複製体(クローン)の存在証明(アイデンティティ)の定義とは?
師匠であるイーレと似た問題を抱えることになったサイラスの取る行動は?
科学の発達した世界から来た研究馬鹿な傾向がある問題児達が、異星で遭遇する事件と、それに巻き込まれ振り回される養い子の恋心の明日はどっちだ?