『魂導の紋章師
―死者の声と歩む者―』
魂は、死んだからといって、すべてを失うわけではない。
そこには、生きた記憶がある。
後悔がある。
怒りがある。
愛した人への想いがある。
そして時に、それらは死後もこの世界に残り続ける。
紋章師リアン・アルステッドは、死者の魂を導く《箱舟の紋章》を持つ青年。
魂に触れ、その記憶と想いを受け取りながら、行き場を失った死者たちを還していく。
だが、その力は救いだけを見せてはくれない。
死者が最後に見た光景。
誰にも語られなかった罪。
忘れ去られた約束。
そして、歴史の奥へ葬られた真実。
リアンは、それらすべてを自らの心で受け止めながら、旅を続けている。
そんな彼の隣に立つのは、銀髪の戦士サラ=レイヴェル。
幾つもの戦場を越え、“死を運ぶ鳥”と呼ばれた彼女は、リアンの《守り手》として、その無防備な背を守る。
強く、自由で、よく笑い――
そして誰よりも、生きることを知っている女だ。
二人は旅の中で、数え切れない死と出会う。
救えた魂。
救えなかった魂。
生かすことが救いとは限らない者。
そして、死んだからこそ救える者。
魂に残された想いを受け取るたび、リアンの中でひとつの問いが大きくなっていく。
――人を救うとは、何なのか。
やがてリアンは知る。
魂には記憶がある。
けれど――
魂そのものは、記録ではない。
ならば。
死者を導くことが、救いなのか。
生かし続けることが、救いなのか。
失った者を、もう一度取り戻すことが、救いなのか。
記憶が残れば、その人はそこにいるのか。
記憶を失えば、その人ではなくなるのか。
死者の想いを受け取りながら歩いてきた青年は、やがて自分自身が最も救いたいひとりをめぐって、その問いと向き合うことになる。
何を残せば、人は失われないのか。
何を守れば、その人を救ったと言えるのか。
そして――
愛する者を取り戻したいという願いは、本当にその人のためなのか。
これは、
死者を導く青年と、彼を守るひとりの女が、
死者と生者の想いを受け継ぎながら、
「魂」と「救い」の意味を問い続ける物語。
「舟は……ここにある。――行こう」