「ロザリー様が少し熱を出されているの。来週の夜会、また譲ってくれる?」
侯爵令嬢アシュリーは、婚約者である王太子エドワルドのその言葉が、今夜で四十八回目だと知っていた。
王太子の婚約者として、アシュリーが担ってきたのは『王宮儀礼台帳』の管理だ。年四十八回の公式儀礼と社交日程を司り、国際関係の均衡を保つ役職である。しかし婚約者の従妹──「病弱」なロザリー伯爵令嬢が予定を欲しがるたびに、アシュリーはその日程を譲り続けてきた。譲った夜会でロザリーが元気に笑っていても、気づかないふりをして。
「来年のシーズンも、ロザリーに任せてやってほしいんだ。君は優しいから、大丈夫だろう?」
アシュリーは何も言わなかった。ただ静かに儀礼台帳を開き、来年の四十八件の予定から、自分の名前をすべて消した。
「白紙に戻しました。あとは、ロザリー様がご自由に」
王宮から姿を消して三日後。国際使節の来訪が拒否され、王家の慶事式典が中止され、王太子に国王陛下からの召喚状が届いた頃、アシュリーはすでに北の辺境への馬車に揺られていた。
「あなたが書き込んでいたのは、日程だけではなかったのですよ」
辺境伯の静かな声が、四年ぶりにアシュリーを──本当の意味で必要とされる場所へ、連れていく。