1986年4月26日、午前1時23分。
チェルノブイリで妹が死んだ。21歳だった。
被曝で剥がれ落ちる皮膚の下で、妹は最期に言った。
「事故じゃない。あれは、誰かにやられた」
――兄はKGBに入局した。妹の最期の言葉を、世界の真実にするために。
しかし4年後、モスクワの地下3階で、兄は自らの手で証明してしまう。
犯人は、存在しない。
チェルノブイリは、ただの事故だった。
妹の最期の言葉は、被曝と恐怖が作った幻だった。
真実は、妹を救わなかった。
ならば、真実に義理はない。
「私は数学者だ。証拠が存在しないなら、証拠に見えるものを配置すればいい」
金属プレート、通信音声、資金の流れ。
たった一つの精巧な嘘で、彼は冷戦を終わらせようとする。
利用したのは、15歳の少女。
彼女もまた、大国に嘘をつかされようとしていた。
これは、真実を捨てた男が、17年後、白い花の下で、ようやく人間に還る物語。
――白い花の設計図は、まだ半分だった。