王宮筆頭通訳官オーレリアは、決裂寸前の隣国との交渉の席で、相手国王太子の言葉に潜む“本当の譲歩条件”をただ一人正確に訳し、会談を救った。
だがその手柄は上司に奪われ、婚約者である外交担当の伯爵子息は「お前の仕事など、言葉を右から左に流すだけだろう」と彼女を嘲り、職と婚約の両方から切り捨てる。
軽んじられたまま王宮を去ったオーレリア。けれど彼女が訳すのをやめた翌朝から、二国間のやり取りは少しずつ、しかし致命的に噛み合わなくなっていく。婉曲な敵意は見過ごされ、好意は侮辱と誤読され、条約の一語は意味を反転させた——自国の外交は、誰にも気づかれぬまま静かに崩れ始める。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、あの交渉の席で唯一“正しく訳された自分の言葉”を覚えていた、隣国の王太子だった。「君の訳がなければ、私はこの大陸の誰とも本当の話ができない」。破格の待遇で迎えられ、オーレリアは初めて実務を正当に評価される。
やがて彼が読ませようとしていたのが外交辞令ではなく彼自身の本心だと気づいたとき——言葉の裏を読むのが仕事の彼女は、自分の心の真意にだけ、まだ気づけずにいた。