婚約者を妹に譲った。笑顔で。
その代わりに手に入れたのは、借金と荒れ地と老執事一人。
前世は中小企業の経営者。感情より数字、言葉より行動。誰も振り向かなかった辺境の土地で、エルナは静かに、確実に動き始める。
農地を耕し、道を作り、出ていった村人を呼び戻す。数字だけを信じて、一つずつ動かしていく。
口の悪い隣の辺境伯が、気づいたら毎週来ている。理由は「視察」らしい。農具をこっそり送ってくるくせに、名前を書かない人だ。
奪われた人生ではなく、自分で選んだ人生を。
譲ることに慣れた令嬢が、初めて何も譲らないと決めた場所の話。