「婚約破棄ですか。では——泣きます」
転生した先は、乙女ゲームそっくりの異世界。
しかも私、フローラ・エーデルハイトは断罪される悪役令嬢ポジション。
普通ならここで絶望するところだが——前世の私は、業界で伝説と呼ばれた女優だった。
二十年以上、あらゆる感情を演じ続けてきたプロ中のプロ。
悲劇の令嬢? お手の物。
病弱な令嬢? 医者すら騙せる。
慈愛の聖女? 民衆が泣いて感動する。
毅然とした被害者? 悪役は向こうになる。
舞台が異世界に変わっても、女優の本能は死なない。
「その場しのぎの演技」で全部押し切ってやろうじゃないの。
——のつもりだった。
泣いたら婚約者だった王太子が世論の悪役になり、病弱演技をしたら追放が白紙になり、清楚演技をしたら社交界の全員が落ちて、聖女演技をしたら本物の聖女より聖女扱いされ、外交パーティで営業スマイルをしたら敵国との関係が改善された。
ちょっと待って、話が大きくなりすぎていない?
さらに困ったことが一つ。
どんな演技も見破れなかった無表情の騎士団長が、「演技でも構わない」と本気になってきた。
そうなると逆に——演技で返したくなくなってしまった。
これは誤算だ。
前世を含めて、初めての誤算だ。
笑いと勘違いが国家を揺るがす、演技力SSS令嬢の異世界成り上がりコメディ。
そして彼女が初めて「演じない」を選ぶまでの、不器用な恋の物語。
——「今のは、演技じゃありません」
——「知っている」
幕が上がります。