『楽器が弾けないと音楽はできない』
『歌が上手くないと音楽はできない』
いつから人はそんな常識を持ち始めたのだろう。
そもそも楽器は何のためにあるのか? それは本当にないといけないものなのか?
歌が上手くないと、歌い手にはなれないのか?
皆が認める、技巧的で美しい声でないと素晴らしい音楽は誕生しないのか?
否。それは違う。
たとえ歌が下手でも、楽器が弾けなかったとしても音楽はできる。才能さへ持っていれば。
藪島ハクにはそれがあった。
頭の中で曲を創るという才能を。
厳密に言うと、それは創っていないのかもしれらない。
急にメロディが頭の中をかけ走って、気づいた頃には曲がある。
そんな才能を彼は持っているのだ。
だったら簡単ではないか。
その才能はいつしか誰かに発掘され、いずれスターへと駆け上がる。
才能とはそういうものではないのか。
否。それもまた違う。
この環境——少なくともこの『学校』という環境においてはそうはいかない。
才能を発掘されるどころか、むしろひどく嫌厭される。
そして自分に自信をなくし、はなから『自分に才能などない』と決めてしまう。
彼は本当にスターになれるのか?
いや、そもそも彼に音楽ができるというのか?
楽器も、そして歌もろくに上手でないというのに。