北海道で「土」と「作物」に人生を捧げてきた男、土田耕平は、気がつけば見知らぬ大陸の片隅――アーネンエルベ帝国の辺境農村で目を覚ました。
この世界の人間は便利な「スキル」なんて持っていない。
代わりに、人や国ごとに異なる“理(ことわり)”が世界を動かしているという。
肥えた大地も、枯れた畑も、戦争も飢饉も――すべては理の結果にすぎない。
水は? 肥料は? 土の酸度は? 輪作は?
前世で当たり前だった知識を口にしただけで、ツチダはあっさり「異端扱い」されてしまう。
pHだの窒素だのと言えば、顕微鏡すらないこの世界では呪文にしか聞こえない。
それでも彼がやることは変わらない。
目の前の畑を測り、考え、耕し、実らせるだけだ。
やがてツチダは気づく――自分が信じてきたものは、ただの技術ではなく、「農の理」と呼ぶべき、この世界に通じる一つの“理”なのだと。
ただ「食べて生きていく」ために始めた小さな畑仕事は、やがて帝国と、隣国・神聖黄金国アウルム・サンクタを巻き込む大陸規模の“理の争い”へとつながっていく――。
これは、剣も魔法も持たない一人の農家が、畑と理で世界を少しずつ耕しなおしていく物語。